「あのね、バレているんだよ」

光一郎は小鳥の髪を撫でながら秋人を睨む。

「バレているって、何がだ!」
「虚勢を張ってもビビっているのが丸分かりだよ」

光一郎の言葉に秋人は唇を嚙む。

「私も貴方の素性は存じ上げています」

小鳥はやんわりと光一郎の胸を押すと、そこから抜け出る。そして、光一郎の横に並ぶと秋人を見つめる。

「コーヒー生豆輸入専門商社オータムコーポレーションの御曹司。そんな貴方が執拗なまでに私と接触しようとするのは何故ですか?」

ハッと秋人は小鳥を見る。

「クソッ、知っていたのか!」
「あのさあ、お前、詰めが甘いんだよ。コイツを誰だと思っているんだ?」

光一郎は小鳥の頭に手を置くと、ポンポンと軽く叩く。

「誰って、三日月さんの遠縁でお掃除お姉さんだろ? だから52Fへも出入りできるんだろ」

秋人が不貞腐れたように言う。

「52F?」

小鳥は、訳が分からない、というように首を傾げる。

「ああ、大富豪が住んでいると聞いた。俺はその人と近付きになりたいんだ」
「なるほど。52Fの住人を探るため小鳥に近付いたのか」

光一郎は納得したように軽く頷く。

「ああ」と秋人は面白くなさそうに肯定する。

そうだったのか、婚約者との結婚が決まっているのに、何故あのような真似ができるのか、小鳥は不思議でしょうがなかった。
秋人の行動はともかく、理由が分かって小鳥は少しスッキリする。