「貴方は誰? 私の記憶にある光一郎は『白鳥光一郎』、そして、背ばかり高く痩せっぽちで……」

そして、お日様と若草の香りがした。

でも、今、目の前にいるのは……名前を変え、爽やかなフルーティーグリーンの香り……エルメスのナイルの庭を纏う大人な男。

二人の共有するところは……。

「嘘吐き」
「……小鳥」

光一郎の瞳に翳りが浮かぶ。

「もし貴方が私の知っている光一郎だったら……」
「だったら?」
「貴方との結婚は考えられない」

冷たく言い放つ小鳥。

「私は嘘吐きは嫌い。信用しない」

光一郎は哀し気に小鳥の頬を撫でる。

「触らないで!」

小鳥は光一郎の手を払いギロリと睨む。

「ごめん。でも、それでも……僕は君が好きだ」

真摯な瞳が小鳥を見つめる。

見つめ返す光一郎の瞳の奥。湖底のように沈静な様。昔も今も変わらぬ平和で静かな瞳。その瞳は確かに小鳥の知る白鳥光一郎のものだ。

悔しいが……また、魅せられる。
小鳥は光一郎から顔を背けるとギリッと唇を噛む。

「君もまた……僕を恋しく思っていた……よね?」
「なっ、何を言うの! そんなわけない!」

怒りに燃える眼を光一郎に向ける。