「ウーン、流石小鳥ちゃん。切り返しがメチャクチャ楽しいね」
今の言葉の何処に面白味があったのだろう?
首を傾げる小鳥を、ニコニコ顔の光一郎は嬉しそうにギュッと抱き付き直す。
光一郎の胸の中はお日様と若草の香りがした。
父三日月のように逞しくはなかったが、父以外の異性の胸の中で小鳥は少しだけ緊張しドキドキした。
「明日のランチ、一緒に食べよう」
ル・レッドの生徒は食堂でモーニング、ランチ、ディナーを取ることになっていた。
「十二時に第二ダイニングで初デートだよ」
「デート……ですか」
「そう。大好きな小鳥ちゃんとデート」
何となく小鳥は光一郎が嫌じゃなかった。
それは王子のような見掛けだけが理由ではなかった。
彼の瞳の輝き。その瞳に自分が映っているのが何となく心地よかったからだ。
「いいですよ。ランチご一緒します」
だから迷いなくそう答えた。
光一郎は大喜びで、もう一度小鳥の唇にチュッとキスをした。
「セカンド・キスも僕のもの。もう一度キスしたら僕のお嫁さんになってね。これ、プロポーズだから」
光一郎はそう言い残して……。
結局、ランチに現れなかった。
そして、その後、完全に姿を消し、二度と小鳥の前に現れなかった。


