この時、「ウワッ!」と叫んだのは小鳥ではなく、真横で見ていたミチェルだった。
「キキス! 白鳥さん、それダメです」
駄目出ししたのもミチェルだ。
彼女は一応、良識人だったようだ。
小鳥はただ無言で光一郎を見つめ、光一郎は腕の中の小鳥を見つめ返していた。
そして、口火を切ったのは光一郎だ。
だがその言葉は、無礼を詫びるものでもなく、愛を囁くものでもなかった。
「本当、小鳥ちゃん可愛い」
光一郎はそう言って小鳥の髪に頬をスリスリしたのだ。
「何か……親猫が子猫にじゃれついているみたい」
我に返ったミチェルがポツリ呟いた。
それから彼女は二人の姿を見つめ、プッと噴き出し、「じゃ、私、お邪魔みたいだし行くね」とウインクし、バタバタ足音を立て図書館を出て行った。
「ミチェル、サンキュー」
彼女の背に光一郎は言葉をかけ、小鳥は光一郎の腕の中で、この状態はいつまで続くのだろう、と思った。
「小鳥ちゃん、本当可愛い」
この頃、すでに目が悪かった小鳥は分厚い瓶底眼鏡を掛けていた。
見かけは髪型からして『こけし人形』だし、貧相な見栄えだし、可愛いの落下点が何処なのか全く分からず、何とも不思議な人だ、と光一郎を、奇妙系がたくさんいる『三日月サークル』に位置付けた。
それはさて置き、と小鳥はおずおずと言葉を掛ける。
「あの、腕、解いてもらえませんか?」
「エーッ! やっと捕まえたのに、ヤダ!」
百六十センチ近い身長で、貴方は子供ですか!
(今思えば十四歳は十分子供だ)
小鳥は約二十センチ上を見ながら小さく溜息を付いた。
「小鳥ちゃん、好き。大好き! 僕と付き合って」
「何処へ付き合えばいいのでしょう」
小鳥には光一郎の思惑が全く理解できなかった。