「最終目的は『好き』……ですかぁ。で、Mr.光一郎、貴方は今まで好きになった女性はいらっしゃる?」
突然、突拍子もない質問をする小鳥に光一郎は驚きコーヒーを噴き出す。
ケホケホ咳き込む光一郎を見つめながら、小鳥がポツリと呟く。
「私はありません。好き……脳内物質やホルモンが精神状態を変化させ普段と異なる状態に陥ること……ですよね」
いったい何を言っているのだ、と小鳥を見ながら光一郎は答える。
「そんな難しいこと考えたことないけど……さっきの質問はYES」
「そうですか、好きな女性がいらしたのですね……」
「過去形じゃなく、現在進行形……かな」
進行形ということは今、好きな女性がいるということ?
ドグンと小鳥の胸が嫌な音を立てる。
「……なのに私との婚約を承知したのですか、それって不誠実ではないでしょうか?」
「どうして?」
光一郎は可笑しそうにクスクス笑う。
「僕は過去も現在も、唯一人、君だけを想っているんだけど」
ヘッ、と小鳥は口をアングリ開ける。
「そんな間抜け面も可愛いと思うよ」
「ちょっと待って下さい! 私たちはつい最近出会ったばかりですよね」
光一郎が首を横に振る。
「君とはル・レッドで出会っている」
エッ! 記憶の奥の膨大な名簿を手繰っても『黒羽光一郎』も彼の顔も小鳥のデーターにない。
「ウソ、私は貴方を知らない」


