小鳥がそんなことを考えていると、突然声が割り込む。

「失礼、小鳥、ちょっといい」

光一郎だ。彼はキョロキョロ辺りを見回し、三日月と秋人がいないことを確認する。

「はい、何でしょう、Mr.光一郎」
「小鳥さん、紹介して」

マーサがグイッと前に出る。
また始まった、とベリ子は忌々し気に舌打ちする。

「ああ、こちら黒羽光一郎さんです。で……」
「ごきげんよう。光一郎。マーサ・ブラウンです」

小鳥の紹介を遮りマーサは光一郎の肩に手を置き、グイッと豊満な胸を彼の身体に押し付け、「よろしく」と頬にキスをする。

マーサがどういう人物であろうと、二人のその姿はフランス映画のように美しく、とてもお似合いに見えた。

あれ? と胸に痛みを覚え、小鳥は二人から目を逸らす。

「光一郎さん、小鳥にご用があったのでは!」

機転を利かせたべリ子が光一郎に声を掛ける。

「あぁ」と光一郎は頷き、やんわりとマーサの手を肩から外すと、真っ赤なルージュが付いたであろう頬を白いハンカチで拭い、それをゴミ箱に捨てると小鳥と向き合う。

「ねぇ、ちょっと来て」

小鳥の手を握ると「いいかな?」とベリ子に尋ねる。
ベリ子はチラリとマーサに目をやり、フフンと鼻を鳴らし満面の笑みで答える。

「どうぞどうぞ、小鳥にメロメロの婚約者様」

そして、満足気にマーサを見る。
プライドを傷付けられたマーサーは小鳥を睨み付けていた。

小鳥は光一郎の優しい眼差しを受けながら、婚約は解消されたのでは、と思ったが、何となくマーサの前でそのことを言いたくなかった。

「じゃあ、行こうか」

「アッ」とマーサが何か言いかけたが、光一郎はそれを無視して小鳥の手を引き、パーティー会場を抜け出る。

二人の後ろ姿を見送り、悔しそうなマーサに目をやり、べリ子は心の中で高笑いし呟く。

「もう、やだ、メチャクチャ気持ちいい! 往年の恨みが晴れていくようだわ」

サンキューと二人がいなくなった方に投げキッスを送り、べリ子は御馳走の並ぶテーブルへとスキップする。