綾音はそう言うとにこりと微笑んだ。

───ドキン

俺、なんで鼓動が早くなってるんだ?
でも、さっきより苦しくはない。

・・・嬉しい?

「梓くん?」

そう呼ぶ綾音の顔はすごく近かった。
きっと俺がぼーっとしてる様に感じたのだろう。

「うわぁ!!!?な、なに。」

「だーかーら!来る?来るよね?え?、来るでしょ」

なんか、強引に決められたんだけど・・・。
別に嫌な気はしねぇな。

「あ、お母さんとかには連絡しといた方がいいよね。」

「あーいい、いい!俺から連絡しとくから。」

「・・・そう?わかった。」


「ねぇ、梓くんのお母さんってどんな人なの?」
と、綾音がそう聞いてきた。
俺の・・・親ね。

「渦宮小夜(ウズミヤサヨ)」

「うずみや・・・さよ?どっかで聞いたことあるなぁ・・・」

うんうん唸っている綾音を横目に俺は言う

「料理研究家、渦宮小夜。」

「あー!あの本いっぱい出してる人!」

「しー!声デカイ!」

綾音は、口を手で抑えた。

「あの人が梓くんのお母さんなの?」

俺は頷く。そんな俺を見て綾音は、ほぇ~・・・と、びっくりしたような変な声を出す。

「すごいなぁ・・・。あっ、でもお母さんみたいな綺麗なお料理できないからね!?」

と、目を開いて体を俺の方へ乗り出す。

「大丈夫だよ、最初から期待はしてねぇから」

「あー!もうひどい!」

と、頬を膨らます綾音を見て俺は笑った。