「あっ。アサヒナさん!」

〃アサヒナさん〃えらくぎこちない呼び方。

まぁ、こんなことになるまでは喋ったこともないしね。

「次の時間にさぁ...」

「お断りします。次の授業は、体育ですよ?...ついてくる気ですか?」

一ノ瀬君は、じっと私を見てから。

「いやー。別にアサヒナさんの体には興味わかないかなぁ...。」


そこまで言わなくていいじゃない...!

「はっハレンチですよッ!」

思わず声を荒らげてしまった。

「アッハハハ!アサヒナさんておもしろいんだな。」

おもしろい...?言われたことのない言葉だったから、戸惑った。

「あっ。もうすぐ体育だな。そろそろ行くな。...じゃあまたあとで!」

「はっ...はぁ。」

大きな目を、三日月みたいにして笑う顔はなんだか無邪気な子供みたいだ。



────体育館

「朝比奈さーん!ボール取ってくれないー?」

「わかりましたー」

大きい声を出せないからなるべく語尾を長くすることで長く感じるようにしているけど、いつ出してもやっぱり恥ずかしいんだよね。

なんだか、パシリみたいになってるけど、性格上断れないから丁度いいのかもしれない。

「それがさぁ...?」

どこからか、話し声が聞こえた。

私は1人でいる事が多いから、どこか 慣れてしまっていたけれど

改めて思うと、体育は個人ではなく団体であるため、孤独を感じやすいのかな。


────いつも軽いバレーボールがずっしりと重く感じる。



「────静!パス!」

男子はバスケをしているみたいで、ダムダムとボールのはねる音に我に返った。

「わぁってるよ!」

たのしそう...。そんな言葉しか出てこないくらい、一ノ瀬君は笑顔だった。

パスをもらった一ノ瀬君は、レイアップ...とかいうシュートで綺麗に決めた。

「さすが、バスケ部のエースだよね!一ノ瀬君!」

そうか、バスケ部なんだ。だからあんなに上手いんだ。

その後も一ノ瀬君はバンバンシュートを決めていく。


(かっこいいな...。)


一ノ瀬君が、こっちを見た...手を振ってる...もしかして私に!?
いやいや、そんなこと...ないよね?!

「キャー!一ノ瀬君に手振られた!」

「何いってんの?!私に振ってくれたのっ!」


危ない...良かった。
恥ずかしくなるところだった。


一つの思い込みは危ない...。