『諦めるんじゃなかったんすか。そんなんじゃ俺、安心も何も出来ないんですけど』
俺は先生と視線を合わせる事もせず、ピアノへと一直線に向かい、椅子に座る。
「酷いわね、先生だって九条君が好きなのよ? 」
『先生が好きなのは、俺の肩書きと両親から引き継いだ音楽の腕前でしょ。俺は、俺自身を見てくれる彼女がいいんです』
楽譜を広げながら、いつの間にか俺の横にぴったりとくっつき座る先生に言い放つ。
「確かにそうよ? でも九条君自身も私好きだけどな~? 」
段々近寄ってくる彼女の顔を制するように、額に手を当てる。
『誰だか知らない人から、野田先生とキスしてたッというデマが耳に入ったんで尚更そういうのはやめて頂きたいです。誤解でもされたら嫌です』
怪訝そうな表情で彼女を見て言うと、不敵に彼女はふふっと笑った。
「もう、誤解されてたりして……ね? もう九条君じゃなくていいやッ。もうこれで本当におしまい」
彼女なりの最後の意地悪なのであろうか、その言葉が頭を悩ませる。
『どうすりゃいいんだよッ……』

