「名取川サンさっきからずっと下向いてる、前向いてなよ。下ばっか見てるとお化けが後ろから驚かしてくるぞ〜」
『何ですかそれっ、可笑しい』
「んだよッ、うるせぇ。とりあえず、前向いてろよ。下見てても自分の足しか見えねぇだろ」
ポリポリと頬をかくと、猛先輩はいじけた様にぷいっとそっぽ向いて歩く。
でもその歩調はちゃんと私に合わせてくれていて、嬉しかった。
『じゃあ、今日はありがとうございました』
家の前につき、私はペコリとお辞儀をして微笑んだ。
すると〝おうよ〟と軽く手を上げて笑ってくれる猛先輩。
あぁ、もう終わっちゃう。
この心地の良いひとときが終わると思うと、少し寂しかった。
私はひらっと手を振ればドアを開き、足を玄関へと踏み込もうとした時――。
「浴衣っ、似合ってたよ」
それは間違いなく猛先輩の言葉で、振り返った時にはもう、猛先輩の背中は小さくなっていた。
似合ってた……嬉しい。
『先輩も……かっこよかったです』
もう既に遠い彼に向かって、小さく私は呟いて、ドキドキと高鳴る胸をぎゅっと握りしめた。

