やがてタクシーの運転手が戻ってくると、指先でOKを作りながら車に乗り込んだ。

「あんだ、運が良かったで一部屋空いてるど」

不安そうな私の顔をみながら運転手が言葉を続けた。

「なあも心配するごだねえ、こごは俺の姉さまの家だ。」

そういうと運転手はメーターを見た。

「1360円になるです。んだば御勘定を」

私は支払いを済ませるとタクシーを降りた。
古びた引き戸のガラスには、「旅館」の文字。中の明かりがぼんやりと明るく、雪けむりの上がる道路を照らしていた。
ガラッと戸を開ける音がして、ほっかむりをした小太りのおばさんが出てきた。