「なにしてんすか、って、宇野先生?」


橘先生は綺麗な顔をピクリとも動かさず真顔で、宇野先生に問う。


「なに、って成績の話だ!」


焦った口調で、宇野先生がいう。


資料室、という、狭い空間。


「へぇ、こんなところで。」


橘先生はニコ、と笑って、

「次、こんなことあったら報告、ですね。」


という。


なぜだか、少しときめいてしまった。


橘先生は私に目を移すと、

「行こう」

と手を引いた。


残された宇野先生は、たぶん、立ち尽くしていただろう。



資料室から少し離れた渡り廊下で、橘先生は立ち止まる。

「あ、はは、すいません、橘先生。」

かわいた笑いが口からこぼれる。


「いや、大丈夫だ、…てか、いつもあんなことされてんのか?」


ぞく。


あんなこと、って、みられて?

「すいません…………されたのは。今回はじめてで。」


私がうつむくと、

「ははっ、いやいや悪いのはあのクソ野郎だろ、」


と、橘先生が、笑う。

白い歯をのぞかせ、犬みたいに。


甘い笑顔。

なんだか、
ここにいると。苦しくなる。

そう感じた私は、

「ありがとうございました。」


ペコ、っと礼をして、教室まで走ってもどった。


なんか、良かった……。

ホッとした。