「…………」



長い長い、沈黙。


あとあとになって、

なんてことを口走ったのだろう、

とものすごく後悔している。


コピー室の扉はしめられていて、

この空間にはふたり。


なんでか、

橘先生の大きなやさしさに包まれたい、なんてことを。

おもってしまった。


心がさみしいからかな。



「結城?…なんか、嫌なことでもある「ううん。」


先生が言うのをとめて、

ぶんぶんと首を振った。


「ちょっと遊びで言ってみただけー。本気にしないでよ?」

口を開いて、乾いた嘘を先生に言った。


んー、

あは。

失敗、した、


か、な?

やば、なきそーーーーーー



ぎゅう。



「ふぇ、」


変な声がもれる。


「ちょ、せん、せっ……」

だ、だ、


だきしめられ、て。

橘先生は、私の背中に手を伸ばし、


ゆるくゆるく、

わたしをだきしめた。


男の人に抱きしめられるのなんて、

はじめてで。


男の人のにおいに、

グラングラン、と、酔いそうになった。



「……」


少しの沈黙の、あと、


先生は、フワリと手を離した。


顔、あつ。


「これでいいか。」


顔を上げると、

真っ赤な顔した、橘先生がいた。



「……へ。……あ、うん。うん、」


橘先生でも、

こんな、私みたいな生徒に照れたりするんだ。


ドキドキしちゃった。


「ありがとうございました。」

わたしは、深々と礼をして、

なにかを、言われる前に、と、


コピー室をすばやくでた。


まだ、あつい感触がのこっていた──。