緊迫した、重苦しい空気。


「あの、ね、先生…、私また帰ってきました」


転校生のかたは、そう言っていた。


「…望月。いい加減にしろ」


橘先生は、いつもの優しい口調とはちがう、

厳しく怒りをこめたような口調で喋った。


「橘先生?、夕妃って呼んでくれないんですか?」

望月、さんは、そう言った。


望月 夕妃(モチヅキ ユウヒ)、先輩。


夕妃先輩は、

なにか橘先生と関係、あるのかな。


「もういいだろう。おれにもちゃんと好きな人、いるんだ。さようなら。」


橘先生は冷たい口調で言い捨てると、向こうへ遠ざかっていた。


……おわ、ったか。

なんか、

モヤモヤする。


かえろう、と腰をあげ、

靴箱のほうへもどる。



「あ、今日の、」

声がきこえて、ふりかえると、


「あ、」


夕妃先輩がいた。


ん。

なんか、すごい綺麗。

「今日はごめんね、ぶつかって」

夕妃先輩は、眉をさげて、

申し訳なさそうに笑った。

フワフワと、香水のいいかおり。


化粧もすこしほどこしていて、

長く伸びたまつげと、

ピンクのチークと、

チェリーレッドのくちびると。


全てが綺麗で、キラキラしてみえた。


「こちらこそすいませんでした。」

私もぺこり、と3度目の頭をさげた。