儚いオモイビト。

自分の部屋に戻る。

制服をぬいで、

ハンガーにかけて。


クローゼットのすぐ後ろにある、ピアノ。


ピアノにそっ、とふれる。


つやつやとした黒色。

かたん、とフタをあけると、

白、黒、白……といりくんだ鍵盤。


ポーン……。

一つの音を鳴らすと、

ふわ、っとなにかが耳に押し寄せてくる感じ。


私はすぐそこにある、楽譜をひらくと、


自分の好きな曲を、下手なりに弾く。


ピアノの好きなところは、自分の思い通りに行くところだ。

なめらかに鍵盤をすべり、音を鳴らす。

それだけで、自分の好きなものを奏でれるんだから。


嫌いなところは、競う、ってところ。


コンクール、何回出たかな。

何回、表彰されなかったかな。


じぶんの実力を目の当たりにするからやだ。


あ、ほらでたよ、


私の自分勝手。


いろんなことを考えてしまう。

はぁ、っとため息をはいて、


私はピアノのフタをとじた。