央子は俺の胸に顔を押し付けたまま、蚊の鳴くようなやっと聞き取れるほどの声で言った。
「……お願いだから、もう少しだけ……もう少しだけこうしてて。
……今、スッと波が退くみたいに怖いのが少し退いたから……」
それを聞いて、俺はもうこみ上げてくる涙を堪えることができなかった。
「…………」
央子の体をぐっと強く抱きしめると、彼女は安心したように微かに吐息をもらす。
そのまま俺は、央子を抱きしめたまま声を出さずに泣いた。
しばらくして、央子が顔を上げて微笑んだ。
「……なんかさ、あんなに怖かったのが嘘みたい。今まで感じていた恐怖が嘘みたいになくなった」
嘘ばっかり……。
彼女は表面上は確かに笑っている。
だけど、彼女の体は止まることなく微かに震え続けている。
央子はいつもこうやって我慢してきたのか。
怖くても、我慢できるぐらいだったらこうやって意地を張って我慢してきたのか。


