その理由が貧血のせいなのか、それとも貧血が大したことではないと俺が言ったせいなのか。

そのどっちでもないのかはわからないが。



でも、俺だって伊達に十何年も咲雪の兄貴はやっていない。彼女の習性は十分に把握している。 



こういう場合にどうすれば最も効果的に咲雪の機嫌を直すことが出来るか、俺には取っておきの魔法の言葉がある。



「……咲雪、晩御飯は何食べたい?」


この一言で、案の定咲雪は目を輝かせた。



「お兄ちゃんが作ってくれるの?」


「ああ。お前のおかげで母さん、午前中は仕事が出来なかったからな。今から缶詰になるそうだ。どうする?今日は好きなもんを作ってやるぞ」


「う~ん、その質問されちゃうと困っちゃうな~。あと30分ばかり悩んでもいい?」


「駄目。時間がないから」


「んーじゃあさ、トンカツが食べたいな。あの口の中でジュワーって広がるジューシーなやつ」



咲雪がうっとりしながらそう答える。