「瑠夏様の能力の中には、“杖の使い手となる”という能力が含まれていました」

テーニンさんが話している間、瑠夏達は昔の書物が沢山保管されている保管庫に通された。
そこで瑠夏は口を開いた。
「そ、そんなに…凄い事なんですか?」
「……」
テーニンさんは瑠夏の質問には答えず、ある棚から一冊の書物を取り出した。
「これは、この国の歴史が綴られている古文書です。これに記されている限りでは、杖の使い手は…」

そう言ってテーニンさんはあるページを開き、瑠夏に見せた。しかし、そこに書いてある文字は瑠夏には読めなかった。
「あぁ失礼、アレンダーナ語はまだ読めませんよね、訳すと、“杖の使い手となった者が、この国を絶望の危機から救った”です。」
瑠夏は絶句した。
「え…?」
テーニンさんはそのまま話を続けた。
「約600万年前、アレンダーナに現存世界の研究者達がやって来ました。彼らは、私達アレンダーナの国民を何千人も捕らえて連れていったり、殺された人達もいました。全て研究の為ですが…」
「ひどいっ…でも、同じ人間ですよね?」
「もちろんそうです。研究なんて、必要ありません。しかし、研究者達は我々の命を脅かし、恐ろしい集団と化したのです」
「そんな…今は、大丈夫なんですか?」
「はい、古文書に書いてあるとおり、杖の使い手となった魔法使いが…」
ユウゴが言葉を続けた。
「この国を救ったんだ。その人は、現在の国王の、妃となった。つまり今の王妃。」

瑠夏は息をのんだ。
そして沈黙が続いた。

やがて、震える声で瑠夏が口を開いた。

「まだ…あんまり実感が湧かないけど…そんなに、凄い人と同じ能力を持っているなんて。でも、王妃様に近づけるように、私頑張る!……あ」
「どうした?瑠夏」

「もしかして、ミンクさんは私の能力を知ってて、あのリストを書いたの?」

瑠夏はミンクから渡されたリストを思い出した。確かあのリストには…

・市へ行き、瑠夏の守り石とペンダントを手に入れる
・国王と王妃様、城の料理長に挨拶に行く
・まぁ、仲良くなる

今日のリストの…2つ目…

私を、王妃様に会わせるため?
あとで聞いてみよう。

「ああ、そういうことか。確かに、そうだとしたら、ミンクさん凄いな」
しばらくして、ユウゴも意味を理解したらしい。
「じゃあ、早いとこ守り石とペンダントを買って、国王と王妃様に会いに行かないとな。テーニンさん、お願いします」

テーニンさんは頷き、部屋の隅に置いてある背の高い棚に近づき、一番上の段から細長い箱を取り出した。
そして、それを瑠夏に手渡した。

瑠夏は、その箱を開け、中に入っていた“それ”を取り出した。

箱の中には、
「きれー……」
群青色の液体、星型の白い石、紫色の細かい粒がガラスの球体の中に入った、美しいペンダントが大切にしまわれていた。瑠夏がペンダントを手に取り、揺らすのに合わせ、中の液体も波打った。
そしてペンダントの球体のちょうど上端には、何かをはめ込むような形のくぼみがあった。
「そしてこれが、そのくぼみにはめ込むあなただけの守り石です。名前は、“パロットクリソベリル”。数十年に一度しか姿を現さない希少種ですので、大事に扱って下さい」
手渡されたのは、ダイヤモンドの形にカットされたエメラルドグリーンの石だった。まるで宝石のような光沢があり、鮮やかなエメラルド色に癒された…はずだったが。
やたらと長い守り石の名前に、瑠夏は何度も噛んでしまった。
「え?ぱろっと…くりすべるる?べ…べろ…」
「パロットクリソベリルです」
「ぱれっとくりそべらら!」
見かねてユウゴが突っ込みを入れる。
「瑠夏って舌回んねーの?」
「あ、名前はもう良いです。後でメモをお願い致します。正しい名前を言わないと反応しませんからね?」
「あっわっわかりました!頑張って練習します!あと、そのー、使い方って…?」

瑠夏の言葉に、テーニンさんは口の右端を上げ、無邪気に笑う。
「それは、自分で考えて下さいね!」

「え、えぇぇぇぇぇぇ!?!?!?」
瑠夏は絶叫し、うなだれた。
ただでさえ狭いテーニンの店に、瑠夏のよく通る声が響き渡ったのだった。