向こうへのとびらと恋の風

ミンクさんが消えた直後、瑠夏はユウゴさんに頭をつつかれた。
「大丈夫?目玉が飛び出してるけど」
どうやら知らない間に瑠夏の顔は凄いことになっていたらしい。
「あーユウゴさん…大丈夫です、すみません…びっくりしちゃって」
「うん、普通の人が見たら同じくらい驚くだろうね。だって一瞬で消えたんだから。1つ教えてあげるよ。ミンク様は、風を操れるんだ。…と言っても、この王国は別名“風の王国”だから、ここの魔法使いはみんな出来ることなんだけどね…風で物を動かしたり、自分の身体を移動させる事が出来る。その中でも、ミンク様のは1番と言っていい程凄いんだ。一瞬で消えることなんてミンク様にとっては朝飯前。光速よりも速く操る事も出来るらしいけど、それをすると命が削られてしまうんだ…だからやった事はないと思う」
さっき頭の中に浮かんできた疑問が、ユウゴの言葉によって一気に解決したような気がした。そこで瑠夏は問いた。
「あの、ユウゴさん、ま」
言いかけると、ユウゴさんが瑠夏の言葉を遮った。
「瑠夏さん、その、さん付けはやめてくれないかな?普通にユウゴで良いよ。」
男の子からいきなりこんな事を言われた物だから、びっくりして動揺してしまった。
「え、えっ、でも、なんか恥ずかしいんですけd…」ユウゴさんは両手で顔を覆い、赤面しながら言った。
「じゃあ、そのかわり俺もその…あの、瑠夏さん、じゃなくて呼び捨てにするからっ!!それじゃ駄目かな?あと、敬語じゃなくてタメ口の方が良いんだけど…」
「え…あ、う、うん。ユ…ウゴ…」
「る、瑠夏……」
なんだか恥ずかしくて緊張して、2人とも下を向いてしまった。
永遠にも思える、気まずい沈黙が流れる。

その沈黙を破ったのは、ユウゴだった。
「瑠夏、あの、この紙なんだけどさ。」
そう言ってユウゴはさっきミンクさんから渡された1枚の紙を見せた。
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*To Do Today*
・市に行き、瑠夏様の守り石とペンダント を手に入れる
・国王と王妃様、城の料理長に挨拶に行く
・まあ、仲良くなる
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「何??これ…」
「これは、俺達の今日やるべきことだ。瑠夏はこの国の救世主だから、1日に2、3個任務が与えられるんだ。あと、みんなに敬語使われたり、“様”づけだったりするよね?」
言われてみればそうだった。
ミンクさんをはじめ、皆が瑠夏のことを瑠夏様、と呼んでいた。どこか窮屈な感じがして居心地は良くはなかった。
それに対し、ユウゴは普通にタメ口だった…まるで友達のようで、深く考えていなかったのだ。
「そう言われてみればそうかも。どうしてユウゴは普通に接してくれるの?」
「いや…実は、俺も5年前、救世主としてここに呼ばれたんだ」
「えっ!!そうだったんだ!じゃあ、ユウゴも“様”づけなの?」
「ううん、俺はまだ小さかったから、そんなに丁重に扱われてなかったんだ。だから普通に“ユウゴ”って呼ばれてた」

そうなんだ…じゃあ私と同じなんだ…

共通点を見つけられたみたいで、少し嬉しかった。

「へぇー、ちなみに何歳?」
「あぁ、言ってなかったか。12歳だよ。瑠夏もだよね?」
「え!同い年だ〜!なんか嬉しいな」
「そだな。じゃあ、まずこの任務を終わらせちゃおうか」
そう言ってユウゴは先ほどの紙を見せた。
「あ、忘れてたー!そうだね、まずは…?」瑠夏は首を傾げた。ユウゴを見ると、瑠夏の姿をまじまじと見つめている。
「え…ななに…どしたの…?」
ユウゴはため息をついた。
「とりあえず、瑠夏のその格好じゃ…外に出るのは恥ずかしいよな?…っていうか、一緒に居る俺が恥ずかしいから!!まずは普通の格好に着替えだな。」
なんだか、損した気分になった。
「うん、でも…ユウゴ…着替えるの見てるつもりなの?」瑠夏は恐る恐る聞いた。
「…はぁー?俺そんなに変態じゃないし!でも部屋まで着いてくわ、心配だから」
「あ…ありがと…」
それからも2人はあーだこーだと言い合いながら部屋まで戻ったのだった。