門が開き、城の全貌が明らかになる。
背の高い門が隠していた城の低い場所をよく見ると、“Welcome Savior”と書かれた垂れ幕がかかっていた。
救世主の歓迎…?で合ってるかな…?
ん?んん??救世主?なのか?私は…
まぁそれは置いとこう。

「瑠夏様ー!中に入りますよ」
ミンクさんの声が聞こえて、ぼーっとしていた私は慌てて返事をした。
「あっはい!わかりました!」

ズンチャ ズンチャ ズンチャ ズンチャ
タッタラタッタター タッタラタッタターン

ん?何か聞こえる…
徐々にその音が大きくなっていく。
足音のような物も聞こえる。
瑠夏は目を凝らした。
城の大きな扉から行進してくるのは、
同じえんじ色のマントを羽織った恐ろしい魔の大軍…ではなかった。
背が高く美しい女の人を筆頭に、音楽隊がファンファーレを鳴らしながら歩いてきた。数はざっと…100人超。
みんな笑顔で楽器や太鼓を叩いている。
見ていると、なぜかすごく楽しい気分になってくる。どうしてだろう。

そうだ、私は忘れていたんだ。
中学校に入学してすぐに始まったいじめ…そのせいで、忘れていた事があった。
あの時は、そんなこと考えている余裕も無かった。
今、思いだした。

私は音楽を愛している。歌うことも、楽器を奏でることも…大好きだったんだ。


気付かないうちに、瑠夏の目からは透明な涙が溢れていた。
「瑠夏様?ど、どうされました!?」
ミンクさんの声。慌てているが、懐かしい人の様な気がして、心が落ち着く。
「ミンクさん…すみません、私……頑張ります。この国で。これから、よろしくお願いします。」
瑠夏は袖で涙をぬぐった。
「ええ。事情は…ここから見ていたのでわかっています。さぞお辛かった事でしょう。でも、もう大丈夫。頑張りましょう」
この瞬間、瑠夏は覚悟を決めたのだ。

音楽隊の演奏が終わり、瑠夏の歓迎パーティーの準備に急いでいる頃、瑠夏達は城の中に足を踏み入れていた。
城の中は黒、白、えんじ色、金、銀などの色で装飾され、とても綺麗な場所だった。
この場を取り仕切っているミンクさんが、瑠夏を部屋に案内した。ピンクと薄紫で統一された広い部屋。瑠夏の顔が思わずほころんだ。
ミンクさんが躊躇いながら言う。
「瑠夏様…今さらながら、こんなに遠い所までわざわざ、というか、連れて来てしまって本当に申し訳ないです。」
「いえ、大丈夫です。私はもう覚悟を決めました。これからお願いします。」
瑠夏のそのハッキリとした返答に、ミンクさんは目をみはった。

だって…

私にはここしか居場所がない…
学校ではいじめられ、相談できる人もいない。両親はいつも帰ってくるのは遅いし、お兄ちゃんは大学生で一人暮らし始めた。
ここにいる方がいい。

瑠夏はそう自分に言い聞かせて、パーティー会場へと向かった。

パーティーは大盛況で、何十人もの人が瑠夏の所に挨拶に来た。みんな腰を深く曲げて、にこにこしていた。瑠夏はまた泣きそうになっていた。瑠夏が人に笑いかけられるのはせいぜい学校の男子や、成績重視の先生だけだった。こんなに心がこもった笑顔を見るのは久しぶりだったのだ。

夜、部屋でくつろいでいると、誰かがドアをノックした。ミンクさんかな、と思いながらドアを開けたら、そこに立っていたのは小柄な少女だった。
「瑠夏様、お初にお目にかかります。
私、瑠夏様の世話役に任命されたナラと申します。年は15歳。背は小さいですが、瑠夏様より年上なので!よろしくお願い致します。」

15歳には見えないな…童顔だし。

「あー、はい、わかりました。ナラさん、よろしくお願いします!」
「今、15歳には見えないな、とか思いましたよね?あはは、実は私は、人の心を読めるんですよ。それが私の能力です。」

えっ…どうしよう、気を悪くしたかな…

「ご、ごめんなさいっ!申し訳ありませんでした。」
「あのー、る、瑠夏様、あなたは我が国の救世主ですよ??敬語なんて使われたら私が誤解されちゃうので、やめて下さいよー!ナラと呼んでくださいね、瑠夏様!
へへ」ナラは恥ずかしそうに頭の後ろをかいた。その、おどけた様なナラの口調に、親近感を覚えた。少し気が緩んだ気がした。