入学式から1週間が経った。
永遠にも思える程つまらないオリエンテーションも終わり、いよいよ今日から通常授業だ。翔はというと…男子の中で人気者になっていた。そして翔は…モテる…のだ。女子のひそひそ声でも、「西村くん、イケメンだよね」「あんな彼氏が欲しーなー」等という声が多数聞こえる。

うわっ…もう、翔の話なんてされたら…気が散るじゃない……
あと…………
いきなり6時間か…やだな

早くも心をネガティブ思考にチェンジしている瑠夏のことはさておき、小学校が一緒だった女の子達の5人グループは、早くもこんな話をしていた。

「ねー、あの子(瑠夏)ってさぁ…美少女でスタイルも良くて、大人しそうで…男子に好かれそうだよね」
「それな!なんかうざいわー。大人しそうに見えて、結構イヤな奴だったりして」
「男子ってみんなあーゆう子好きだよね、本性知らないくせに。馬鹿だよね」
「ムカつくんだけど。あの子。」
「目障り。男子に媚売ってそう」


そして5人は一斉に瑠夏の方を向いた。
グループのリーダー的存在である小林桃花が、瑠夏の机に近づいていく。瑠夏は文庫本を読んでいた。
「栗原さん…瑠夏ちゃん、だよね?」
初対面の子に話しかけられた瑠夏は、驚いて顔を上げた。はらりと髪の毛が肩から落ちる。
「え、あ、うん!」
「お友達にならない?少し興味があって」
「わ、私なんかで良いの?嬉しいけど…」
「もちろん!なんか、気が合いそうに見えたの!私、小林桃花だよ。1年間よろしくね♪」
桃花はさっきの会話の時とは裏腹に、満面の笑みを浮かべてはいる。
「こちらこそ、よろしく!良かった、友達出来なかったらどうしようと思ってたの。瑠夏でいいよ!」
「まじ?じゃあ、私も桃花って呼んで?」
「うん!ありがと!」
「あ、メアド交換しよ?」

この時既に、歯車は狂い始めていた…

6月。

初めての中間試験も無事終わり、ほっとしていた頃だった。
今までクラス内での友達作りは順調なはずだった。メアドも結構持ってるし。
しかし…それはある日突然始まった。
あの5人組がとうとう動き出したのだ。

瑠夏はこの2ヶ月の間に、既に何人かに告白されていた。ーもちろん翔がいるので全員柔らかに断ったけど。
それを見かねて、5人の怒りは爆発した。
朝。
瑠夏は登校して靴箱を開けた。その中には紙切れが一枚入っていた。
"調子乗ってんじゃねーよ、ブス"
「な…え、どういうこと…?」

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
皆さまどうかご理解ご協力をよろしくお願い致します。これは俗に言う、いじめというやつでございます。はい、そのとおり、瑠夏は馬鹿なので気づいていないだけです。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

瑠夏は下駄箱で立ち尽くしていた。

今までこんなこと無かったのに…なんで?
私、調子なんて乗ってない…
何か悪いことしたかな?←何もしてないけど、天然です。
その時。

「あ、おはよっ!瑠夏!」
桃花だ。
「あ、おはよ…」
さすがに元気な挨拶は出来なかった。
「どうしたの?瑠夏。元気ないね」
気づいてくれた。
「うん…これ、見て」
そう言って瑠夏は桃花にその紙を見せた。
すると、桃花は思いきり吹いた。
「ぷっ…ははははは!!!まだ気づかないの?瑠夏。」こちらに顔を向けた時、彼女の目は笑ってなかった。
背筋がぞくりとする。
「…え………?桃花?」
「馬鹿だね、瑠夏。それを入れたのは私達5人組だよ。どこまで天然なのー?あ、男子に天然と見せかけて可愛い子を演じちゃってるのか!そーだったー!!」
これを入れたのは…瑠夏のグループ…?
私を、良く思ってないの………?
その時、桃花の取り巻きが寄って来た。

「ウケる、固まってるよこいつ!いじめ甲斐があるね♪」

視界が徐々にかすんでくる。
気が付いたら、私は何も言わずに校門を飛び出していた。昔から運動神経は良いので、全速力で住宅街を駆け抜けた。息が上がり、髪も乱れ、涙まで出てきた。

「はぁっ…はぁっ…はぁっ……………」
駅前の広場のベンチに倒れ込み、息を落ち着かせる。涙がとめどなく流れて止められない。
「なんで……友達だと思ってた…のに……もうやだ…」
いいや、今日は学校さぼっちゃえ。
お母さんもお父さんも仕事でいないから、自分で連絡いれとけば大丈夫かな。

涙をハンカチで拭きながら、瑠夏は帰途についた。

家の固定電話で学校に休みの連絡をいれてから、瑠夏は部屋に向かった。私服に着替える。

お母さんに何て言おう…心配させたくないな……

考えていたら、ガタンと大きな物音がし
た。

何?
……泥棒?まさか……ね…

嫌な予感がして、瑠夏は部屋を出た。
キッチン、リビング、お風呂、洗面所、トイレ、お兄ちゃんの部屋、両親の寝室、書斎、玄関。

全部見…てはいないか。
残るは屋根裏部屋。子供の頃によく隠れんぼで遊んでた。
もう何年入っていないんだろう。何が入ってたかも忘れちゃった。
でも、あんな所で何かしたわけじゃないのに…物音って……あり得る?
あり得るかも。
瑠夏は自問自答して屋根裏部屋に続いている隠し階段の扉を開けた。
扉の向こうはうっすらと光が差し込んでいる。何故なら小さな窓があるからだ。
くもの巣張ってるだろうな……
瑠夏は重い足取りで階段を登って行った。

ギシ…ギシ…ギシ…ギシ…

古い階段だってのはわかってるけどさ、一段一段登るごとに軋む音デカすぎでしょ。
そして、遂に一番上まで登った。

意外と、整頓されてるな。

周りを見回していると、その中に、特別目を引く物があった。
昔のディズニー映画に出てきそうな、ほこりをかぶった古めかしいダークブラウンの宝箱。
中が、光っている…

これかな?なんか怖いな…
瑠夏はその箱を手に取った。
その瞬間ー

カチッ。

え……?

辺りが眩しくなって、キーンと耳をつんざく音がする。
頭がクラクラして…き……