すきなひと




「色気のねー女だな」


すると、聞きなれた声に嫌味を言われた。
振り向かなくてもわかる。

瞬だ。

隣に並んできた瞬は、眠たげに目をこする。それから、猫のようにあくびをした。


「自分だってしてるくせに」
「俺はいーの」


なにそれ、と瞬から日の出の方向に目を戻す。

頭が見えてきた。


「……満、上着はどうしたよ」
「え?……あ」

言われて気づく。私はお気に入りのトレーナーだけで、神社で着ていたコートを忘れていた。


「なんとかは風邪引かないどころか、寒さも感じないのかよ?」

はん、と鼻で笑った瞬。

彼は上着はもちろん、マフラーまで巻くという完全防備だった。

自分が寒々しい格好をしていると気付いた途端に、体が寒さを認識し始めた。


私って、本当に馬鹿だ。言い返せない。

小さな瞬のため息の後で、顔の前に突き出された紺色のジャケット。


「……ありがと」
「ん」


袖を通すと、少しだけ余る。


ふわり、と瞬の匂いがした。
瞬は無愛想だけど、優しい。