最寄り駅の改札を出た辺りで、尾瀬くんとばったり会った。
おはようって挨拶をして、そのまま学校を目指して二人で歩き出す。

彼に気付いた女の子達がこちらを何度か見てきたけど、もういいかって感情の方が勝った。
だって、私と尾瀬くんは友達だもん。たぶんだけど。
一緒に登校したって、何もおかしいことはない。

いつもより遅い電車になってしまったけど、そのおかげでこうして教室を目指せるなら、明日からもこの時間に来ようかなって単純な私は思ってしまう。


「昨日は来てくれて本当にありがとう」

「こちらこそ、呼んでくれてありがとう。やっぱり萩原さんはすごいなぁって、そう思っちゃったよ」


尾瀬くんの笑顔が朝の光を浴びて、いつにも増して輝いて見える。
私はそれに、じんわりと沸き上がる幸せを感じた。

照れくさくなって足元を見た私の耳に、心地よい彼の声が届く。


「今まで見た中で、一番だったね。昨日は」

「ほ、ほんとう?…実はあんまり覚えてなくて」

「え、覚えてないの?ライブ中のこと、だよね?」


驚いたような声が降ってきたので、私は気まずくなって顔を上げる。
案の定、びっくりした表情を彼は浮かべていた。


「うーん。緊張のし過ぎで色々飛んじゃったんだよね…。無我夢中で終えたのは分かるけど、所々しか思い出せない…」


私の言葉に尾瀬くんは目を見開いて、私はそれに曖昧に笑うしかなかった。

尾瀬くんや美亜が見守ってくれていたのは覚えている。
でも、歌詞を間違えずに歌えたかとか、合間にどんな言葉を挟んだとかそういう細かいことが上手く思い出せない。

っていうか昨日の私、ちゃんと舞台で自己紹介できてた?