「…栞はさ、将来のことちゃんと考えてないの?」

「それは…」

「ちゃんと、考えてるよね。側で見てれば分かるよ、最近特に頑張ってるし」


美亜は困ったような表情を浮かべて私を見ていた。
そんな顔をさせてるのは私だね。ごめん。

二人分の革靴の音が私の耳に届く。
その単調なリズムが一層、気持ちを暗くさせていった。


「もっと自信持ってよ。栞は本当にすごいんだから。この私が保証する」


その言葉に何だか涙が出そうになる。

でも、でもね。私は全然すごくないの。
フラフラしてても自分で修正出来なかったし、その修正をしてくれた人に泣きそうな顔をさせてしまったし、こうして美亜を困らせているし。

ね?全然すごくないでしょ?


「…ありがとう」

「信じてないって顔してるね。それ、栞の悪いとこだよ?自分のこと、過小評価しすぎ」


そうなんだろうか。
自分では、何が過小評価になるのかも分からない。

「ま、今の栞には何言っても響かないかぁ」って美亜は困り顔のまま私を見る。
その目にはきっと、すっごく情けない表情の私が映ってるんだろうな。


「でも、ふさわしいとかふさわしくないとか、そんなの全部ナシにして。隣にいたいか、いたくないかで考えたら答えは出るでしょ?」


後悔だけは、絶対しちゃだめだよ。彼女はそう私に語りかけながら、どこか子どもの面倒を見る母親のような表情を浮かべていた。

私はもう、何て返事をするのが正解なのか分からなくて。
何も返せないまま、美亜の話を静かに聞いていた。


頬を撫でる風はこんなに暖かくなって私を包んでくれるのに、私の自信はいつまでたっても冷たい箱の中から出てきてくれない。