こういうの、ほんと困る。
私は照れてしまって、ぎこちない顔を浮かべるしか出来ないのに。


「尾瀬くん、突然私のことからかうよね」

「そう?」

「そ、そうだよ。びっくりするからやめてほしい」


「えー」と不服そうにこちらを見る。
どっちが、「えー」だよ!こんなの毎回されたら、私の心臓が持たないでしょうが。

椅子にゆったりと腰掛けている尾瀬くんに、じとっとした非難の目を向けて抗議する私。
あまりにも長い間そうしてるものだから、彼はたまらずといったように苦笑いを浮かべた。


「俺、前から萩原さんに謝りたいことあったんだけど」

「え、なに?私をからかって遊んでること?」

「ちょ、思いのほか根に持ってるな」


困ったような表情のまま私と向き合っている尾瀬くん。
私がねちっこい性格というのを、今さら知ったらしい。

その先の言葉を吐き出すのに迷っているかのように視線を辺りに彷徨わせてから、彼はためらいがちに口を開いた。


「1月に、俺が言ったこと覚えてる?」

「1月?何かあったっけ?」

「…出来るのにやらないのは逃げだとか、そんなので、夢なんて叶えられないとか…」


あぁ、あれって1月のことか。
私が本気で色んなことに向き合わなきゃって、そう意識を変えるきっかけになった尾瀬くんの言葉だ。

あの言葉のおかげでこうして毎週ライブが出来ているし、倉田さんに声を掛けてもらえて舞台に上がれるんだから、私は本当に彼の言葉に感謝している。
私をああして叱ってくれたこと、心からありがたいと思っている。