春休みということもあって明日も学校がないので、路上ライブの後、尾瀬くんと駅前のカフェに入った。
相変わらずこうして、ライブを見に来てくれている。


お互いにドリンクを頼んで、空いている席を探す。
背中にギターを抱えている私を気遣って、私の飲み物までトレイに入れて運んでくれている尾瀬くん。
その背中を追って店内を歩く。

初めて夜の街で見かけた時、コートにマフラー姿だった彼は今、薄手のコートを羽織ってマフラーなんかしていない。
もういつの間にか4月に入って、時の流れの早さを痛い程感じていた。


「ここにしよっか」


二人用のテーブル席が空いていて、尾瀬くんはトレイを置いて腰掛けた。
私もギターケースを椅子の横に立てかけてから、同じように向かいの席に座る。

私はまだホットのドリングだけど、彼はアイスココアを頼んでいた。
グラスの中には並々と氷が浮かんでいる。
尾瀬くんはストローでそれをかき混ぜてから口を開いた。


「来週から3年かぁ。あっという間に一年過ぎそうな気がする」

「分かる。焦ってる間に終わるんだろうなぁ」

「どんな席順になるんだろ。隣に萩原さんがいないとやる気出ないんだけど」


何の気なしに言ったように見えたけれど、私の動きを封じ込めるには十分過ぎる言葉だった。
目の前の彼は、氷と遊びながらのん気にココアを飲んでいて、ふと目の前の私を見てその動きを止めた。


「…顔、真っ赤なんだけど」

「え、え!気のせい気のせい」

「いや、気のせいじゃないでしょ」


ニヤッとした、彼には似合わない表情を浮かべている。
色っぽく、上目使いにストローをくわえて。