「え、私ですか!?」


私が思わず大きな声を出したので、辺りを行き交う人達が一瞬こちらに目を向けた。
少し離れた場所で待っていた尾瀬くんも、何事かという表情で私を見る。

彼にごめんって目線を送ってから、目の前の人に視線を戻す。


「うん、君にぜひお願いしたいんだ。最近ここで歌ってるよね?何度か見かけたんだけど、本当に良い声してると思って気になってたんだ」


そう言いながら、二十歳そこそこに見える目の前の男性に名刺のようなカードを渡される。
先ほど彼の自己紹介の際に聞いた“flash”というバンド名とともに、サイトのURLが載っている。

カードから目線を上げて、20センチ近く背の高い目の前の人を見上げた。

髪は明るく染められてるのに傷みなんて見当たらなくて、街頭や店からの明かりを反射してキラキラしている。
重めの前髪から覗く目は真ん丸で、色素の薄い瞳はガラス玉みたいに輝いて見える。
高身長で、この容姿。

いかにも、だ。
尾瀬くんとは違ったタイプだけど、いかにも人の視線を独り占めするような、そういう人。


「もし信用ならないんなら、今調べてもらってもいいよ?あの彼も、相当俺のこと怪しんでるね」


と言って、ちらっと私を待つ尾瀬くんに目を向ける。

コートのポケットに両手を突っ込んで、マフラーに顔を埋めるという見慣れたスタイルで、じっとこっちを見ている。
さっきからずっとそうしていたのか。
心なしか、目の前のこの男の人に警戒の目を向けているようにも見える。