「今日、何の日か覚えてる?」


え、何の日?
私は彼の隣を歩きながら首を傾げる。

夜風があまりにも冷たいので、ポケットに手を入れながら歩いた。
ポケットの中のスマホでさえ冷たくて、手の温度を奪っていく。


「2月、13日でしょ?え、なに誕生日だったりする?」


違う違う、と左右に首を振る。
もったいぶるようなその態度に、早く教えてよって目線を送る。

教えてほしい?と尋ねるので、うんと素直に頷く。


「今日は、バレンタインデーの前日です」


……はい?


「明日になると、俺は大きな紙袋にたくさんの人からのチョコを持って帰ります」

「あ、はい。隣の席でそれを見物しますね」

「渡すなら、今だと思うけど?」


大きな歩道橋を背に、商業施設の通路に足を踏み入れる。
ここを通ると、改札までスムーズに進めるのだ。

尾瀬くん、どうした?
なんかキャラ違くない?

室内の明かりは、外とは比べ物にならないくらいに、彼の綺麗な顔をはっきり見せる。
その顔をじっと黙って見つめていると、尾瀬くんはたまらないというように苦笑いを浮かべた。


「ダメだ、やっぱりキツい」

「無理してたでしょ、今」

「かなりしてたよ。恥ずかしい〜」


心なしか頬が赤く染まる。
なんだか恥ずかしくなって、私までちょっと赤面した。

渡すなら、今だと思うけど?だって。

その言葉を紡ぐ尾瀬くんは、どこかの国の王子様みたいに見えた。
言い過ぎなんてことは絶対にない。