12月中旬。
年内最後の期末考査を終え、開放感に満ちたまま街に足を運んだ日のことだった。

何人かの集まりの中に見知った顔があって、思わず二度見のようなことをしてしまった。


夜になるというのに学校指定の制服にコートといった装いで、その右手にはコンビニの袋が握られている。
そんな彼の姿を見ながら私は、この近辺に有名な予備校があるのを思い出していた。

イルミネーションで彩られた街に、埋もれない存在感が彼にはある。

見られたらまずい、ということは別にないけれど、気まずいのは確かで。
足早に通り過ぎてくれたならまだマシだったかもしれないけど、足を止めてじっとこちらを見ている。
その表情が読めなくてちょっと怖い。

気に入ってた場所ではあったけど、こうしてアコースティックギター片手にここへ来るのは当分控えたほうがいいかもしれない。
いつ他の人に会うかも分からない。


私は自らの手が奏でるメロディーに合わせて、言葉を歌にする。

たまらなく気持ちの良い瞬間。
こんな街中じゃ、冬の澄んだ夜空でさえ星は見えないけれど、こうして歌ってる時は目に映るもの全てが、いつもより色濃く見えるような気がする。

それがクセになってやめられない。
もっともっと綺麗な色の世界を、輝く世界を、目にしたいと思ってしまう。


じっと見ていた端正な顔がある言葉を紡いで、私は動揺で声が震えてしまった。
向こうにもそれが伝わったんだろう、彼が小さく笑ったような気がする。

“がんばって”

軽く手を振って彼が立ち去った後も、その言葉が私の脳内で、勝手に彼の声で再生され続けて。


次学校で、どんな顔して会えばいいんだろうと私を悩ませた。