私は去年までネクタイを結んだことがなかった。 去年の入学式、洸ちゃんのネクタイが曲がっているのがどうしても気になって、結んであげた。 ……不思議だった。 どうしてあんなに曲がったネクタイが気になったのか。 どうして初めてなのに結び方を知っていたのか。 どうして、 とても幸せな気持ちになったのか。 ――こんなふうに。 私の中のいのりが時々顔を出して、自分の存在を主張する。 いのりの記憶や感情が、私の中には確かにある。