入部の一週間、俺は多球練を見ていた。正しくは横目で見ながら俺と他の1年はラケットの説明を受けていた。ラケットには2種類あるらしかった。ペンホルダーとシェイクハンドと言うらしい。万騎は、ペンホルダーを使っているらしい。が、今まで出てきた、大橋先輩、岡西先輩、金山先輩、寺牧先輩はシェイクハンドだそうだ。
ペンホルダーというラケットの持ち方はペンを持つようなイメージだが、シェイクハンドは何とも言えない、変な持ち方だ。
俺はシェイクハンドを勧められた。何でも俺のように身長の高い人は遠山 旭(トオヤマ アサヒ)先輩のようなカットマンというのになるらしい。遠山先輩は初めて会った時、俺にこう言った。言ったと言うより告げた。

「身長を活かすならカットだね。」

と。
ラケットの説明の時何がどういう力で働いたのか俺にも分からないがとにかくペンホルダーを使おうと思ったのは事実だ。

「俺、ペンホルダーにします。」

無論、今決めなくていいし、戦型の説明を受けてから決めた方が良いと言われたが俺は変えることをしなかった。否、選ばなかった。
ペンの先輩は数人だった。
まず、御山先輩。先輩方にたっくんと呼ばれているらしく、

「別にたっくんと呼んでも良い。本名は御山 卓也(ミヤマ タクヤ)だ。よろしく頼む。」

と言った。多分元気で騒ぐような先輩ではないのだ、多分。
二人目は金山先輩がみどりんと呼んでいる先輩、藤田 緑(フジタ ミドリ)先輩。自身もみどりんという名は気に入っているらしく

「俺、本名は藤田緑だけど、みどりんて呼んでほしい!よろしくねー!」

と言ってのけた。みどりんと命名したのはいずみん先輩らしいが。
3人目はショー先輩。中島 湘(ナカジマ ショウ)先輩。中2の先輩からはショー先輩と呼ばれ、中3からは湘ちゃんと呼ばれる先輩。自己紹介をしてくれた時も

「俺、湘!氵(さんずい)にきへんに目!それで湘!」

としか言わなかったので岡西先輩から苗字は聞いたのだけれども。
四人目は万騎。名のみしか紹介してなかったので改めてもう一度紹介を。黒山 万騎(コクヤマ マキ)、通称、マキ。万騎は中1から卓球を始めたのではなく小学生の大会ではすでに何度か優勝しているらしい。詳しくはまだ何も話せていないためわからないけれども。初会話はこうだった。

「ああ、クラスメイトの。バスケ部に入ったんじゃなかったんだ?」

一言そう言ってから再びあの言葉を、俺をまっすぐ見据えてまるでその視線で射抜くようにあのセリフを口にした。俺を虜にしたあのセリフを。

「一緒に有名にしよう」

そういうことで、ペンホルダーは晴れて四人になったと言うわけである。