入学式から一週間が過ぎて、クラスは大分落ち着いた空気になってきた。
 気の合う仲間をそれぞれに見つけ、グループは日に日に固まっていく。

 休み時間、教室の移動があるわけでもなく、だらだらと話し声の絶えない教室。

 大体、この時期を逃してしまったやつらは、一年間ぼっちなんだよな。

 そうは言うが、俺は他人事のようにしか考えられない。何かを話す相手がいようがいまいが、俺はどっちだっていい。
 中学も、人間関係薄かったから。

 こんな俺だが、人というものに対する興味が全くないわけではない。

 その点で言うなら、とんでもない強者がいる。

 俺の隣の席の片城証というなんとも変わった名前の女の人。この人はいつも、寝ている。

 朝、いつの間にか隣に座っていて、四六時中寝ていて、放課後、いつの間にかいなくなっている。

 それはまるで、人を避けているかのように。

 それがどうしたことか、今、何気なくその方を向いてみれば、起きているのだ。
 なにやら難しそうな本を読んでいる。

 頬杖をついて。
 あまり面白くないのだろうか…?

 驚きのあまり、二度見してしまった。

 すまない、失礼だということは重々承知のうえだ。だが仕方がないんだ、身体がつい反射的に…。

 醜い言い訳はほどほどにしておこう。
 幸い、片城証は俺に見られたことに気付いていない。

 俺はこの人が誰かと話している光景を見たことがない。

 多分、それは俺だけじゃない。このクラスの人達みんな、きっと知らない。

 でも、まさか、話せないわけないし、あ、どうせなら俺が第一号になってやろう。

 本を読むなんて当たり前のことをしていたとしても、思わず二度見してしまうくらいの変わり者だ。
 片城証に少しばかり心惹かれた俺は、話しかけてみようと思った。

 不審がられるのは嫌だから、さりげなく、椅子ごとずりずりと片城証に近付いた。