根拠は無いけど、その時俺は、大丈夫だって信じて疑わなかった。

 今思えば、本当に何の根拠も無い、甘い考えだったんだ。

 それから、母さんと父さんの声を聞くことは二度となかった。

 母さんと父さんは、その翌朝、王時商店街の近くの川で発見された。発見された時にはもう、息はなかったそうだ。
 二人には例のナイフが刺さっていたそうで、母さんには太股に、父さんには胸に深い傷が残っていた。

 通り魔事件で初めての死者だった。

 遺体を見た時、ねーちゃんは泣き崩れて長い間立ち上がることができなかった。

「大丈夫じゃなかったじゃない」そう言われて俺は、何を返せばいいのかわからなかった。

 1ヶ月経って、その悲しみや絶望は薄れたわけじゃないが、もうそういう自分の状況に慣れてきた。

 特にねーちゃんは、1ヶ月間ショックでほとんど寝込んでいた遅れを取り戻そうと、壊れたみたいに勉強し出した。

 勉強だけではなかった。家事もして、バイトも始めた。

 1ヶ月間苦手なりに料理を頑張った俺としては、ねーちゃんがかわってくれたことには結構助けられた。

 だが料理は予想を遥かに裏切るレベルで不味かった。

 結果として再び料理をし出した俺だが、1ヶ月も続けるとわかったことがあった。俺はどうやら、火が怖いだけで料理の腕が死んでいるわけじゃなかったらしい。

 その火にも徐々に慣れてくると、今度はまた事件が起きた。