川を眺めて、オレは大きく息を吸い込んだ。新鮮な空気が肺を満たし、その感覚に深く満足して息を吐き出した。

 久し振りの晴れ、それも遠くに雲がうっすら見えるくらいの快晴。
 オレは土手に仰向けになった。

 目を閉じると、たちまち水の音、草の匂い、風が前髪を揺らすのを感じる。
 本当に久し振りのことだった。

 オレは5年という時を、刑務所で過ごした。

 芝浦新司。
 オレが殺したとされる、男の名前。

 どうしようか。帰る家はない。迎えてくれる人はいない。そりゃそうか、オレ、人殺しだし。

 不意に聞こえた大きなため息は、オレ自身のものだったようだ。思った以上に落ち込んでいるな、オレ。

 そうだ、思い出した。

 オレは瞼を開き、身体を起こした。立ち上がろうとして、少しよろけた。ああ、まだ身体がびっくりしている。

 久しぶりの解放感に。

 だけどオレ、思い出しちゃったんだよね。すべきことを、さ。こうなったらもう、身体が慣れるのを待ってるわけにはいかないんだ。
 ほら、よく言うじゃん。
「善は急げ」「思い立ったが吉日」ってね。

 今度こそふらつかずに地面を踏みしめて、オレは大きく背伸びをした。

「さあ、早速確かめに行こうか」
 誰にともなく、オレは呼びかけた。