メノウとサヤカはその言葉の続きを待ったが、凉人にはわかっているようだった。


「……うん、ごめん。
山田ちゃんも思わず見つめちゃってごめんね」

「平気です」


それだけ返してメノウは箸を進めた。ちなみにサヤカはさきほどから空気になろうとしている。


「(山田ちゃん、か)」


『山田メノウ』。その名前を聞くと、インパクトの強さから大抵の人が下の名前で呼ぶ。

下の名前で呼ばないのは涼人、そしてマルくらいだった。


しばらく沈黙が流れる。


「山田ちゃんは出海の隣の席なんだっけ」

「そうです。なんで知ってるんですか?」


メノウはそう言ってから、なんとなくマルに視線を移した。
すでに食事を終えていたらしいマルはスマホをいじっている。

凉人はふふ、と小さく笑った。


「だって、ねえ……出海がよく話してる、」

「スズ」


マルが涼人の言葉を遮った。
物凄い勢いで睨んでいる。


「へー、マルくんって私のこと話してくれてるんだ」

「ちょっ、メノウ!」


空気になりかけていたサヤカが、空気をあえて読まずに言ったメノウにツッコミをいれる。

けらけら笑うメノウ。


「……ふざけんな。勝手なこと言ってんじゃねぇ」

「まぁでも、ホントのことでしょ?」


マルの涼人を見る目がもっと鋭くなる。そして、ため息をついた。

そして、ニヤニヤしているメノウを人睨みして、

「……先戻ってる」

そう言い、モーゼの中を歩いて行った。


「そうやって断り入れちゃうところが、律儀というかなんというか」

「お、山田ちゃんわかってるね。そうなんだよー、昔からそういうところ真面目でね」

「(……この二人、出海くんが怖い不良だってことを知らないみたい……)」


恐れられるマルをいじって遊ぶ二人を、サヤカは少し怖いと思った。