数学教師が「こんにちはー」とかなんとか言いながらやって来て、教室内はだんだんと授業の雰囲気に向かっていく。

その雰囲気に今では慣れつつあるのが、怖い。


「(……この女のせいだ、クソっ)」


無駄に背筋の伸びたメノウを、マルは横目で確認する。その真剣な横顔に、マルはドキリとした。

――ツヤの良い黒髪ボブにも、黒目がちな丸い大きな目にも、動揺したのはあのとき一回きりだ……! 

チャイムが鳴る。

昔のマルだったら絶対サボっていたであろう数学が始まる。




「マルくんって、意外だね」


四時間目の数学を終え、カバンからお弁当を出すメノウはマルを見ずに言った。


「……なにが」

「授業。なんだかんだ言ってサボらずにちゃんと出てるじゃない」


お前が出ろっつったからだろ! とは、なぜだか恥ずかしくて言うことができない。


「俺は根は真面目なんだよ」

「あーはいはいそういう系ね」


そういう系? とマルは首を傾げるが、コイツのこういう言葉にはなんの含みもないんだ、と今までの経験から思い直す。


「ヒソカあ、食堂行こー」

「あーい。……あ、そうだ」


友だちから何かヒントを得たらしいヒソカが、無邪気に笑った。


「マルくんも一緒にどう? なんだったらマルくんの友だちも誘ってよ」


――はあ?


「え、ヒソカなに言ってんのさ……」


ヒソカの友だちが声を潜めて言う。


「え? だからマルくんと一緒にお食事を……」

「マルく……出海くんって、いつも屋上で一人で食べてるって噂だよ。
一人の時間を邪魔しちゃ悪いでしょ……」

「あー、そっか」


ヒソカは反省したように苦く笑った。