消しきれなかった上の方も黙々と消すマルの背中に視線が集中した。
黒板消しを半強制的に奪われた女子はぽーっとマルに見惚れている。


『え……なんか意外。マルくんって優しいんだ……』

『手伝ってあげるなんてカッコいー……』


手伝うも何も、元々は日直であるマルの仕事なのだか。

消して、黒板消しクリーナーで綺麗にするところまで終えたマルは、すぐに席に戻ろうとした。のだが。


「マ、マルくん……」

「出海」

「出海、くん。ありがとう」

「……別に」


その素っ気なさとは裏腹なさきほどの優しさ。そのギャップを思い出したように、女子の顔はぶわっと赤に染まった。


「(……落ちたな)」


それを端から見ていたメノウは、自分から吹っ掛けたのに他人事のように見ていた。


「おい。やってきたぞ」

「マルくんえらーい!」

「てめえがやれっつったんだろうが!」

「さあて次は数学だ」

「ふざけんな」


机から数学の教科書を取ろうとするメノウを、マルはぶっ叩きそうになった。が、仮にもこいつは女だと理性を取り戻す。分別のある不良・マルである。


「マルくん、次も授業ちゃんと出るよね?」


授業の準備をし終えたメノウは片肘をつき、マルを見上げる形でそう言った。

その瞳に、うっとマルの心が真っ赤に揺れる。


「(苦手だ)」


マルはそう思った。最初から、出会ったときからお前のその目が苦手だったんだ、と。