マルくんとメノウちゃんの恋のお話



「なんだ、それ、」

「あ、バス来た。乗ろう乗ろう」


そう言ってすぐさま一番前の席ふたつを陣取ったメノウに、小さくためいきをつき、バスへと乗った。


今回行く場所は県外である。

と言ってもマルたちが住む地区は県境いの近くなので、とくだん遠いわけではない。


冬には雪がふり、夏は快適に涼しい、そんな温泉地に向かおうとしていた。


背もたれに体重をまかせる。

隣ではメノウがバナナの皮をむいていた。


「山田はバナナはおやつに入る派か」


となりのひとり席に座る担任の千野(ちの)が、目を細めて言った。


「そうです。先生も食べます?」

「ありがとう。でもなぁ、歳をとるとどうも、間食すると胃がもたれるんだ」


そう言う千野だが、まだまだ30代のなかばである。

女子たちは軒並み、大人特有の千野の色気に落ちていっていた。


「そうですか、」


メノウだけは千野に対しても平等であった。
誰にでも優しく、誰にでも無関心だった。


ふと千野がこちらを向いた。
茶縁の眼鏡がひかりを反射していた。


「出海は、おやつは?」

「……そういうの、興味ないんで、」

「おいマルくん嘘はいかんよ。いそいそとスルメ買ってたじゃん」

「へえ、ふたりで買い物に行ったの?」


千野が首をかしげる。

いつもであれば理科の先生らしく白衣を着用してるが、今はラフだが小綺麗な格好をしている。それが新鮮だった。

メノウはふふっ、と笑う。


「そうなんです! 私たち、仲良しなんですよー」