「マルくん」


そう呼ばれて出海丸(いずみ まる)は不機嫌そうな顔で視線だけ横にずらした。


「……ンだよ、山田」

「メ・ノ・ウ」


威圧感のある彼女の言い方に、マルは内心、動揺する。そんな心中を知らず、彼女は表情も変えずに言った。


「……って呼んでって、言ってるでしょ?」

彼女の名前は山田メノウ。マルの隣の席の女子だ。
入学式のときに席決めのくじ引き、二人はお互いの隣を引き当てた。


「……で、何か用かよ」

「黒板を見て」


マルはそれに素直に応える。
今までの経験から、そうするのが得策だと考えたからだ。


「あなたと一緒の日直の子が、一人で黒板を消しているわ。彼女の身長は比較的低いから、一番上まで届かない」

「……で?」

「手伝って来なさい、マルくん」


そう来ると思った。
マルはため息をつく。


「気づいたアンタが手伝ってやればいいじゃねーか」

「私の身長は彼女より3cm大きいだけよ。そんな私が行ったって邪魔になるだけだわ。それに比べマルくんは……」

「あーもう、行けばいいんだろ行けば」


前髪をかきあげながらマルは立ち上がった。そんな彼の様子をクラスメイトが遠巻きに見てるのがわかる。……チッ。


「めんどくせぇ。
……オイ、チビ」


マルに後ろから声をかけられた女子は、びくっと大きく肩を揺らした。


「……貸せ。俺がやる」