「女連れかよ、『出海丸』」


――意地の悪い声を後ろからかけられたのは。

マルとメノウは同時に振り向いた。そこには、男数人が、にやにやしながら佇んでいた。


「うおっ、しかもめっちゃ美人! やるなあ『出海丸』」

「でも『出海丸』って絶倫ってうわさだからなあ、こんなほっせー体じゃもたないだろ?」

「なんだよそのウワサ! まじどうでもいいわ!」


下品に笑いながら言う男たちに、メノウは違和感をおぼえた。


「ねえ、マルくん、『ぜつりん』ってなに」

「今はそんなことどうでもいいだろ」

「ふうん、じゃあウィキで調べよ」

「……それはやめとけ」


スマホを取りだすメノウを手で制止する。
きょとんとした顔をしたのち、「……確かに、いまの論点はそこじゃないわね」と言って、目の前の男たちを見据えた。


「で、この人たち誰なの?」


大した度胸だなとマルは思った。
虚勢を張るわけでもなく、いたって自然体。何者だよ、とマルは思わず笑った。
笑いながら、真面目に答える。


「知らねえ」


そのときピタリと時間が止まった。


「ああ? ……知らねえだと?」

「どっかで会ったっけ」

「……どうやら、『出海丸』は頭がそうとう悪いらしいな、」


メノウは違和感の意味をやっと理解した。
この人たちはなぜかマルくんの名前をとても強調している。

それが何を意味しているかはわからないが、マルくんがそこに突っ込まないのだ。わたしが出る幕じゃない。