「じゃあ、多数決の結果、うちのクラスは温泉に決定しましたー!」
わーいとか、楽しみーだとかいう声が教室に蔓延する。
マルはそれらを見てあくびをした。
「(俺はもう、こんな風に無邪気には喜べねぇな)」
子供心を小6で失くしたマルはそんなことを思いつつ、隣のメノウに目を移す。
「おまえ、……あんまり楽しみじゃなさそうだな」
「え? そう? そんなことないよ」
そう言いつつも、メノウは未だ浮かない顔をして黒板の『日にち:5/12』とカレンダーを見比べていた。
この学校には、1年生の5月に遠足の行事がある。
クラスごと、県外に出なければ行き先は自由。生徒の個性を大事に、という学校目標に沿った行事らしい。
メノウたちのクラスは温泉に行くという、なかなか渋い選択をしたのだが。
「……やっぱり、被る……」
「……その日なにか用事があるのか?」
「えっ、ああ、いや……そういうわけじゃないの」
珍しく焦るメノウをマルは面白いものを見るような目で眺めた。
「……まっ、マルくんは楽しみ……?」
スネたような顔をして言うメノウに、マルは答える。
「別に。1人で入る方が気楽でいい」
「そうなの……」
そういえば、彼に綾瀬さん以外の男子の友だちはいるのかと、少し心配になった。
