「中学のときは何かスポーツやってたの?」

「……スズに付き合わされてバスケやってた」

「ああ、なんかイメージ通り。綾瀬さんはバスケするイメージじゃないけど」


クラスメイトはなんのためらいもなくマルと会話するメノウを尊敬の眼差しで見つめたのち、邪魔してはいけないといつの間にか退散していた。


「……お前は?」


教科書類をバッグから取りだしながらマルが言った。

心なしか耳が赤い。


「私はねぇ、スケートやってた」

「ふーん」


マルは頭の中に、氷上でくるくる滑るメノウを思い浮かべた。

……ちょっと似合うかもしれない。そして、ちょっと見てみたい。


「まあスケートと言ってもスピードだけどね」


そんなマルの考えはその言葉によって砕け散った。


「は? スピード?」

「うん。スピードスケート。小学校でやめちゃったけど。
ここらへんはしてる人全然いないよね」

「っいうかスケートリンク自体ないだろ。一体どこでやってたんだ」

「あれ? 言ってなかった? 私小学のとき、田舎からこっちに引っ越して来たのよ」


聞いてねーよ。
そう言おうと思ったが随一報告する間柄でもないと持ち直す。


「小学生のときは嫌すぎて泣きながらやってた。地元の子全員やってたからやめられなかったのよ。
だからこっちに転校するって決まったときは本当にうれしかったなぁ」


ふーん、とマルは気のない返事をした。

スピードスケートがどのような競技かはわからないが、まぁスピードを競う競技っぽいし才能もあるのだろう。

メノウが泣くところはマルには想像できなかったが、何かを中途半端で放り出すメノウはもっと想像できない。

……そんなに嫌だったのか?


メノウの横顔をぼんやり眺めながら、マルは未だに掴めないメノウの深層の居所を考えていた。