「深殊〜、私のこと好き?」

私の隣は、朝から騒がしい。
なんでいちいち後ろ振り向いてくるかな。

「好きだよー(棒)」

「わぁ〜ありがとー!もう1回心込めて言って?」

「好きじゃないよ、向坂(こうさか)」

「ん?台詞変わってるよ?」

毎日隣で交わされるこの会話。
表面上にも程があると思うんだけど。

「も〜、またやってんの?飽きないねぇ」

なんだかんだで私も参加する。

私の前の席に座る向坂 悠依(こうさか ゆい)は、私の隣の席に座る衿前 深殊が好きらしい。
毎日毎日告白している。
…どんな意味の『好き』かはわからないけど。
告白の度にフラれてるけど、めげないと言うよりは一種のノリとして捉えているみたい。

「ちょ、聞いて愛羅!深殊がさ、昨日も翠莉(すいり)ちゃんと一緒に帰ってたんだよ!?」

「えっ」

若山 翠莉(わかやま すいり)ちゃんは、違うクラスの女の子。可愛くてミニサイズで人懐こくて、正直モテる。
でも翠莉ちゃんは、深殊の事が好きらしいっていう噂がある。
というか、明らかに深殊に近づいているため、悠依は確信しているらしい。

朝も深殊の登校のタイミングに合わせているのか、校門あたりから2人で登校して来ている。
帰りも深殊を誘って、深殊と一緒に帰る男子達に混ざって下校している。

悠依が妬くのも無理はない。

「うわー深殊、ダメでしょ悠依と帰ってあげなきゃ」

私も悠依に同調して深殊の方を向いた。

「、、えぇー、じゃ、向坂今日一緒に帰ろ」

「はぁ、昨日そう言って翠莉ちゃんと帰ったくせに」

「まじかよ深殊、ほら悠依泣いちゃうでしょー」

「愛羅、向坂泣かせんなってw」

「あんたに言ってんだけど?」

他愛もない会話をしていると、いつの間にかHRの時間になっていた。

いつもこの会話になると私は悠依に同調するけど、悠依の味方になっているわけじゃない。
本当は、悠依にだってあまり深殊にくっついて欲しくない。
いつからこんな事を思うようになったのかはわからない。
でもこれはいわゆる嫉妬で、私も深殊の事が好きなんだという事は確信済み。

この事は勿論深殊は知らないし、悠依だって知らない。
誰も知らない。

本人にも周りにも悟られない程度に深殊とは、お隣さんとして仲良くしていると思う。
ただ、皆の中で深殊は特に洞察力が高くて鋭いタイプだから、少し警戒はしてる。
まぁ深殊の事だから、感づいても何も誰にも、私にだって言わないと思うけど…。

今の所は告白とかしないで、ちゃんとお隣さんとして居させてもらう予定。