学期の中で一番長い二学期が始まった。
体育館での始業式は、常にどこかで誰かがあくびをしていた。
どこか夏休み気分が抜けきっていないのだろう。
そんな生徒に喝を入れる先生もちょこちょこ寝癖がたってるもんだから、説得力などまるでない。

ぐだぐだした雰囲気のまま、その日の学校は終わった。
また始まる学校というサイクルにため息をつく。そのまま校門へと続く校庭を、1人歩いていた。
周りでは他の生徒が楽しそうに笑って話しながら帰っていた。

「初めまして」

校門を出た途端、いきなり話しかけられる。
目の前には、少女が立っていた。
黒い髪のおさげ。ヤンキーのような雰囲気を出している自分とは正反対の真面目キャラのようだ。
制服は違う。別の高校のようだ。

何度見ても、彼女の視線の先は自分しかいない。
…が、間違っていたらとんでもなく恥ずかしい。
とりあえずスルーをしてみることにした。
聞こえない、見えないふりをして、サーっと通り過ぎる。

「ちょ、ひどいなぁ!」

ガシッと肩を掴まれる。
自分に用があるということは確信した。
だが、まずコイツ誰だ…?

「何だよ」
「突然ですが、私…」

いきなり肩から手を引いて、いいとこ育ちのお嬢様のように前で両手を重ねる。

「あなたの事が好きです。付き合って」
「……」

短い沈黙。
聞き間違いでは無いかと思った。
もしくは人違いだ。

「…告る相手間違えてんじゃねぇの」
「合ってるよ!君だもん!」
「嘘だろ」

会ったことない奴に告られる、そんなことは信じられない。
新手の罠か?ドッキリか?と警戒心を出しながら彼女を見つめる。

「誰?って顔してるね。驚いてるんでしょ。
罠でもドッキリでも無いよ。」

にこっと笑う屈託のない彼女の笑顔からは、嘘を言っているようには感じなかった。
ただし、告白をオーケーするわけにはいかない。

「お前、名前は?」
「教えない。秘密」

彼女は即答した。
その時の顔は、けわしく、強い圧力を感じた。

「…は?まず名乗るだろーがよ」

少しキレ気味に彼女に詰め寄る。
しかし彼女は特に怖がるそぶりもなく、まるで今にも首を傾げそうな間抜けな顔でいた。

「でも、教えないったら教えない。」
「なんでだよ?納得する理由を言え」
「そしたら、大事な事を伝えなきゃいけないんだよねぇ。私と君が付き合う上ですごーーーく重要な。」
「付き合わねぇよ」

急いで訂正する。
俺はこんな女と付き合う気は無い、と心の中で叫んだ。

「まぁいつかは付き合うんだからさーね?」
「ね?じゃねぇよ。早く言え」
「つれないなぁ…。では発表します。」

ゴホンゴホンとわざとらしく咳をした後、腰に両手を当て高圧的な態度で立つ。

「実は私、不治の病にかかっています。」
「……」
「どんどん体が動かなくなってくんだよね。
なんで死ぬかっていうと、最終的には脳が止まっちゃうから。」

自分の頭を指差して笑う。
その顔にはどこか、怖さよりも寂しさが滲み出ていた。

「…と、いうわけ。」
「名前教えない理由は?」
「んー…それ教えないことにした。」
「はぁ?!」

すっとんきょうな声を出す。

「なんだそれ!今のカミングアウトよりも重要なのか?!」
「重要かもしれないし、そうじゃないかもしれないし…」
「メンドクセェ女だな!」

イライラを全面的にアピールするが、彼女は「たはは」と笑っている。

「もういいわ…とりあえず帰らせてくれ。」
「えー!告白の答えは?」
「NOだよ!どこの誰かもしらねぇ女にオッケーするわけねぇだろ!」

吐き捨てるように言うと、そそくさとその場を去った。
強く言いすぎたかという罪悪感が心に少し残っていたが、振り返ることはなかった。