「アイツ、何を考えて弾いてたんだろうな……」
あの……胸を締めつけられる感覚。
まるで、悲しみの全てを注ぎ込んだかのような音楽だった。
『泉くんと、出会わなきゃ良かった』
ふと、アイツの言葉を思い出した。
あの時のアイツは今にも泣き出しそうなのに、我慢して、決して俺には弱みを見せない。
それに、自分が酷くアイツを傷つけてしまったみたいで、苦しくなった。
『……傘、返してくれてありがとう。それじゃあ、教室戻るね……っ』
そう言って、去っていくアイツを引き止めたい衝動にかられて……。
俺にそんな権利があんのかって悩んでるうちにアイツは……俺の前から去ってしまった。


