息を飲んだ瞬間、強く左手を掴まれた。
顔を隠していた彼のルーズリーフが頼りなく落ちる。

私は空いた右腕で必死に涙を隠そうとしたけれど、それも彼の手に取られてしまった。

そして目に映ったのは、私を真っ直ぐに見る山井くんだった。


「ずっと考えてた。話してみたいって」

「っ、」

「俺にも笑ってほしいなぁって」


自分の置かれている状況を理解出来なくて、涙も依然止まらなくて。
でも、目の前の山井くんから目が離せない。

いつか自分もこの人と話したいって思っていた。
用事なんかなくても挨拶できるような、すれ違い様に冗談を言い合えるような仲になりたいと思っていた。
夢見るのは誰にも迷惑を掛けないからと。

掴まれた両腕から彼の熱を感じて、私の体温も上がる。


「なのに話し掛けても反応薄いし、カフェオレは一口しか飲まないし。ノートは喜んでくれたけどさ。名前呼んだら泣くし」


だけど、本当は。
本当は、山井くんの隣にいきたいと願っていた。


「気付いたら目で追ってるんだよね。遠くにいても、見つけちゃうし」


恋する乙女みたいじゃない?って山井くんは照れくさそうな表情を見せた。

こんな日を、ずっと夢見ていた。

この時の私はどんな顔をしていたんだろう。
笑ってはいなかった、間違いなく。そんな余裕などなかった。


「ねぇ…、俺にも笑ってよ。」


そう言って私の頭を優しく撫でて。

周りが見てるからそろそろ泣き止もうか、って照れくさそうにまた笑った。







to be continued.