恋人は魔王様

「それは残念。
あの暗がりでそんなに参ってしまうとは計算外だったな。
お仕置きと称して今からここで、めくるめくような時間を過ごそうと思っていたのに」

本気かどうか分からぬ軽口で、キョウは長い足を持て余すように座っているベッドを叩く。

……何をしようとしていたのか。

私は聞かないことにした。
ええ、絶対に聞いてやるものですかっ!

そこで、私は初めて気づいた。
キョウの漆黒の闇を閉じ込めたように暗かったはずの瞳が、今は黄金色に輝いていることに。

人間とは見間違えようも無いほど、美しいゴールドの色は、真夏の海で煌く太陽を思い出させた。

「キョウ?」

私は、ベッドの少し向こうに突っ立ったまま、いまだ正体の分からぬ人の名を口にした。

「何?」

涼しい顔で、問う。
私は正直かつストレートに聞いてみることにした。

「瞳、金色になってるよ」

「ああ、瞳、ねぇ」

くすくすと、キョウは笑った。

「気をつけたほうがいいよ、悪魔の目の色が変わったら。
良くないことが起きる証だから」

良くないことは、もう、大分前から山のように起きてますけどっ!!

立ち上がって、私の身体を抱き寄せる。

「ユリアは、何色が好み?」

カラコン(カラーコンタクト)かっ!
と突っ込みたいのをなんとか抑えた。

「えっと、瞳の色は自由自在?」

「いや。
でも、どんなときにこの色になるかは聞かないほうがいいと思うよ。
恋人からの、優しい忠告」

テノールの声が耳に優しい。
もっとも、単に声が優しいだけで、全体的にその優しさは不穏という名のベールに包まれているのだが。

「分かりました、恋人殿」

私はしゃちほこばった返事をする。

「何もしてないのにそんなに泣いて喚かれたんじゃ、お仕置きする気も失せるな」

本気かどうか、そんなことを呟いた後、

「っていうわけで、今から言い訳タイムに入ろっか」

と、『時間があるから、今からちょっと喫茶店でお茶しない?』って言うのと同じくらい軽い調子でそう言うと、彼は私の手を引いて部屋から出た。