無我夢中で駅に向かって走る。

それなのに、後ろから手を掴まれた。

「もう、嫌だって言ってるでしょっ」

私は悲鳴を上げる。
周りの人の視線なんて気にならない……

視線?!

はっと気づく。
私の斜め後ろ辺りに絡み付いている周りの人の視線は、先日高校でキョウを見下ろしていた皆の視線と同じものだ。

「いつ、俺のことが嫌になったの?」

頭上で、低い優しい声が聞こえた。

私は振り向いて、それがキョウであることを確認する。
日曜の昼間に似つかわしくない黒のスーツであることも、そいつが魔王であることも、今はとにかくどうでもよくて。

「キョウ、助けて」

私は、なんと自ら、キョウの胸に顔を埋めて泣いてしまったのだ。

「ユリア、どうした?」

キョウが私を抱きしめる。

「制服ならちゃんと家に届けたから、もう、心配することはない」

私が制服が無くて泣いていると心底思っているとしたら、ある意味見上げたものなんですけど?

キョウにとってどういうキャラで認識されているのか、若干不安になったが、悩んでいても仕方が無いので、手で涙をごしごし拭いた。

なにせ、さっきからうんざりするほど人の視線を浴びているのだ。

キョウは、どうしようもなく美形で、華があって、オーラがあって。
人を惹き付けずにはいられない。
……悪魔だけど。

きっと、皆もこれは何かのロケでどこかにカメラがあると信じて、眺めているのだろう。