「百合亜ちゃん、ちょっと~」

階下からママの声。

お、救いの神とはママでしたか☆

「はあいっ」

私は慌ててキョウの腕から抜け出して、階段を駆け下りた。

「なぁ……に?」

ママを見て声を掛けようと思った私は、玄関に立つ『いかにも刑事風』の男二人に目を止めた。
冴えないスプリングコートを羽織った青年と、眼鏡をかけてくたびれたスーツを身に纏った初老の男の二人組だ。

「百合亜ちゃん、お客様よ」

「お、客様?」

今日はなんていうか、私の人生で会ったこともない人たちばかりと出会う。
もしかしたら、私が気づいてないだけで、これはドラマの撮影中だったりするのかしら?

照明さんもカメラマンもメイクさんも監督も台本すら見当たらないけど。

「早乙女百合亜さんですね」

フルネームで呼ぶのは止めてくれっ、と、思うが仕方がない。
今、ここでそんなことを言い出したらママに怒られるだろうし、正直、それが一番面倒くさい。

「そうですが」
私は不機嫌に答える。

「今日、学校帰りにやたら派手な男と一緒だったと聞いたんだけどさ」
青いスプリングコートを羽織った青年が、やわらフランクに聞く。

「私は別に派手とは思わないですけど」

葬式帰りのような黒尽くめの服が派手だというなら、それ以外の服を身に纏った場合なんて表現したら良いというのか。

「どこの誰?」

茶色いスーツを着た男の眼鏡の奥が鋭く光った。


ええっと。
自らを魔王様と名乗り、なんとなく恋人になったっぽい謎の人物ですが、それが何か?




……とも言えず、私は唇を噛む。

だいたい、なんで警察がやってくるの?
やっぱり、アイツは相当ヤバイ何者か、なんじゃないの?



私の心の中に、墨が零れたかのように黒い不安がしみになって広がっていく。