恋人は魔王様

そこには。
忘れたくても、忘れようがない。
とても綺麗な顔をした、魅惑的な悪魔が居た。

こんなに暑くなったのに、律儀に葬式帰りを思わせる黒スーツを身に纏い。
黒曜石を思わせる黒い瞳が、包み込むように私を見つめている。

「……キョウ?」

私は思わず目を見開く。
やっと忘れたのに。

「な、んで」

「一度時間を作って家に行ったんだけど、ママが君に逢わせてくれなくて困ってたんだ。
良かった、元気そうで」

人目も気にせず、私をその広い胸に抱き寄せる。

「元気そうでも何もないわよ!!
勝手に別れるって言っておいて。
酷いわ。いくら私がマドンナ・リリーの記憶が取り戻せないからって。
折角好きになったのに。ねぇ、ずるいわよっ」

伝えたかった言葉、全てが勝手に口をついて出てくる。
私の勢いにキョウの抱きしめる力が緩む。

私は、顔をあげて彼の目を見た。
綺麗な顔だからって、二度と騙されてやるものか、という強い決意を胸に秘めて。

「誰が?」

でも、キョウは真面目な顔で首を捻っていた。

「誰が、誰と別れたの?」

ああ、もう。
人を馬鹿にするにもほどがあるっ

「キョウが、私と、よ。
ドゥーユーアンダースタ~ン?」

っていうか、わかってもらわなきゃ、困るんですけど。
目が溶けるほど泣いた私の身にもなって欲しい。